19回日本老年精神医学会

625日(金)A会場(中ホール)

 

MCI,アルツハイマー型痴呆

座長:前田 潔(神戸大学)

 

 


地域居住高齢者における軽度認知機能障害(MCI)の脳機能画像所見
利根町研究

山下典生1),木之下徹2),横銭 拓3),根本清貴4),宮本美佐3),谷向 知3),水上勝義3),大西 隆4),松田博史4),朝田 隆3)

1)
国立精神・神経センター武蔵病院,2) 医療法人社団こだま会こだまクリニック,
3)
筑波大学臨床医学系精神医学,4) 国立精神・神経センター武蔵病院放射線科

TA-4

 

【はじめに】軽度認知機能障害(MCI)は正常からアルツハイマー病への移行段階であるとされ,近年注目が集まっている.MCIの診断や経過観察の有用な手段として脳機能画像検査があり,様々な報告がされつつある.我々は,MCIといえる最初期のアルツハイマー病患者のSPECT画像を解析し,発症年齢による脳血流低下パターンを第16回,18回老年精神医学会において報告した.そして今回,大規模疫学調査を行い,地域居住高齢者においてMCI,また,MCIよりさらに軽度の認知機能障害者の脳機能画像を解析,検討したので報告する.

【対象】対象は茨城県利根町居住の65歳以上の高齢者で,研究への参加の同意が得られ,認知機能検査を施行した1711人の中からMRISPECTを施行しえた143人である.

【方法】対象者に頭部MRI99mTc-ECDをトレーサとした脳血流SPECTを施行した.また,MRI画像を用いてSPECT画像の部分容積効果を補正し,萎縮の影響を取り除いた画像を得た.認知機能検査を行い,注意,記憶,視空間認知,言語,類推の各機能を測定し,記憶のみ1SD以上1.5SD未満の得点低下が見られた群を最軽度記憶低下群,1.5SD以上の得点低下が見られた群をMCI群と定義し,部分容積効果補正後のSPECT画像において正常群との比較を行った.また,同様にしてMRI画像を用いた萎縮の評価も行った.解析は年齢によるパターンの差を考慮し,70歳以下,71歳以上に分け,SPMを用いて行った.

【結果】部分容積効果補正後の解析において,最軽度認知機能障害群およびMCIIともに,楔前部に血流低下がみられ,MCIでより広範な低下が認められた.若年群では両群とも皮質の萎縮が著明であった.

【考察】最軽度認知機能障害群とMCI群で同様に楔前部の血流低下が認められた事より,最軽度認知機能障害群はMCIよりさらに前段階のアルツハイマー病を捉えている可能性が示唆された.しかし,1SD程度の低下は様々な要因で引き起こされうるため,より詳細な検討と経過観察が必要であると考えられた.

 

 

 

 

軽度認知機能障害およびアルツハイマー型痴呆における海馬内部構造の画像化
MRI拡散強調画像による検討

川勝 忍1),林 博史1),鈴木春芳1),深沢 隆1),大谷浩一1),安達真人2),細矢貴亮2)

  1) 山形大学医学部精神神経科,2) 山形大学医学部放射線科

TA-5

 

【目的】アルツハイマー型痴呆(AD)のMRI診断として,海馬の萎縮に着目して同部の容積を測定した報告が多数なされている.しかしながら,容積の計測は煩雑であり,また通常のMRIでは海馬の内部構造を描出することは困難であった.今回,我々はマルチショット拡散強調画像を用いて,軽度認知機能障害(MCI)およびADについて,海馬の内部構造の画像化を行い,良好な結果を得たので報告する.

【対象と方法】対象は正常ボランテア14例(平均年齢65.0±6.3歳),MCI12例(平均年齢67.9±7.1歳),AD14例(平均年齢70.0±7.8歳)である.ここでMCIPetersenらの基準を用い,さらにmini-mental state examination (MMSE)にて,25点以上のものとした.いずれもその後の経過観察でADと診断された.MMSE得点は,MCI群で平均25.8±0.9点,AD群で16.5±6.2点であった.なお,患者または家族に本研究の趣旨を説明し,同意を得た上で行った.
 MRISigna1.5Tを用いて,第4脳室底に平行な冠状断スライスで,T2強調画像,マルチショット拡散強調画像の撮影を行った.マルチショット拡散強調画像は,スピンエコー・エコープラナー法により前後方向に磁場をかけ,浅髄板が低信号に,前後方向に走る神経線維が多い海馬は高信号に描出されるように撮影し,スライス厚は5mmとした.ここで,前交連,皮質錐体路,橋横線維のコントラストが最良な条件とした.

【結果】マルチショット拡散強調画像により正常対照では,海馬は楕円形を呈して海馬支脚,海馬CA1CA3-4の同定が可能であった.視察的に,MCIでは,海馬支脚やCA1が菲薄化が,ADでは,海馬は円形に萎縮し,内部構造も不明瞭化していた.各部位の幅を計測値では,対照群と比較して,MCI群では海馬支脚,海馬CA1で有意に(p<0.001)幅が減少,AD群では,海馬支脚,海馬CA1,海馬CA3-4のいずれにおいても有意に(p<0.001)幅が減少していた.とくに,海馬支脚の幅は,対照群2.60±0.53mmMCI1.28±0.15mm,AD1.14±0.17mmで,2mm以下を萎縮の指標とすると診断に有用であった.

【結論】海馬マルチショット拡散強調画像により海馬の内部構造を検討することにより,極めて早期の段階から画像上ADの診断が可能であった.